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絹糸とテトロン糸について〜弾き比べ・聴き比べ〜

こんにちは、箏曲演奏家の福田恭子です。

今回はお箏の糸の種類についてのお話です。
私が東京藝術大学の学生だった頃、お箏は絹糸を使用しておりました。私の時代は楽器調整法という授業があり、楽器屋の専門家の先生に糸締めを教わりました。
学生たちは、練習・レッスン・本番はすべて絹糸でしたので、練習などで切れた場合は自分たちで日々糸締めをしていたものです。(体力がつきました笑)
絹糸とテトロン糸の音色の聴き比べ

絹糸は湿気に弱いため、梅雨(雨の日)の時期や、気温差の激しい日には糸が切れやすく、1日に何度も糸締めすることになり、とても大変でした。
やはり春と秋の気候の良い時期が絹糸にも一番負担が少なく、音色も良いように感じます。
しかし、最近(私が修士課程にいた頃から)は藝大でもテトロン糸(プラスチック性の糸)が使用されるようになり、現在は演奏家の中でもテトロンが主流で、絹で演奏する演奏家は少なくなっています。
テトロン糸が開発される前は、絹糸でしたので、江戸時代に箏曲の普及に大いに貢献した検校さんたちは、絹箏を使ってお稽古や演奏を重ねていました。

絹糸とテトロン糸の音色と特徴

私の師匠は絹糸の音色が一番良いと仰っており(私自身もそう思います)、私も師の演奏会で演奏させていただく時は絹糸で演奏します。
絹糸は音が柔らかく延びが良いという特徴があり、古典曲の演奏家に好まれています。その音色はそれぞれ感じ方は異なると思いますが、柔らかく深い音色の奥に、芯のある力強さも感じることができると感じています。
ただし、切れやすいのが難点です。一方、テトロン糸は音がはっきりして華やかな印象をもち、より大きいホールでは音色が大きく響くので、現代曲に向いていると言えるかもしれません。そして切れにくいということ。切れにくさと糸締めの回数・さまざまな演奏環境を考えると、やはり利便性があるのはテトロン糸の方たと思います。

音色の聴き比べ

絹糸とテトロン糸の音色を聴き比べしていただきたいと思い、自宅の和室で《六段の調》の初段を絹糸とテトロン糸で演奏実験をしてみました。
※あくまで本格的な録音室での録音環境ではないことをご理解ください。
絹糸とテトロン糸の音色の聴き比べ

絹糸は丸三ハシモト株式会社の「御琴糸」を使用し、太さは17.5もんめ、6本〜6本半で締めており、テトロン糸はサエグサファクトリーの「常盤ときわ」(特撰)を使用し、太さは17.5もんめ、6本半〜7本で締めています。(普段私が演奏するときに使っている糸と締め具合になります)

動画は絹(00:00〜)→テトロン(00:34〜)→絹(01:04〜)→テトロン(01:34〜)→絹(01:54〜)というように、交互に並べております。
大きめの音量でお聴きになられると、違いが分かりやすいかもしれません。

結果

録音環境、弾き方やお箏の質・特性もそれぞれあると思いますので、一概に「こう」と結論付けることはできませんでした。高音については絹もテトロンもあまり違いは感じられませんでしたが、五〜十については絹の方が延びがあるように、あくまでも私個人は感じました。

絹には絹の良さがありますし、テトロンにはテトロンの良さがあります。それぞれの良さを活かした演奏が出来れば良いなと思っております。もし機会がありましたら、生で絹糸の演奏を聴いてみてください。まだまだ絹糸があるかぎり、絹糸の音色をより活かせるように研究を重ねたいと思います。

邦楽の月刊誌である『邦楽ジャーナル』の2015年4月号(339号)にて、特集「箏糸の今」が掲載されており、大変興味深い記事です。邦楽ジャーナルの公式サイトでバックナンバー(デジタル版)を購入できるようですので、ご参考までにURLを掲載しておきます。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281680287/b/1220971/

箏曲演奏家 福田恭子

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