手事(宮城道雄作曲)
福田恭子第1回博士リサイタルより
(箏独奏:福田恭子)
解説
宮城道雄作曲
昭和21年(1946年)に作曲された箏独奏曲。
「手事」とは、古典曲における歌と歌の間にある器楽的な部分を指し、曲名として「手事」を選んだのは「歌のない器楽曲」の意味と「この曲が標題音楽ではなく箏の音色や旋律、形式の美しさを表現する絶対音楽または形式音楽である」という意味を合わせて表したかったからであるとされる。
宮城道雄は、箏に洋楽的要素を大幅に取り入れ、新しい音楽を作り出した改革者であったが、伝統音楽への深い愛着があり、常に伝統を尊重していたことが様々な面で表れている。
この曲は以下の3楽章で構成されている。
第1楽章「手事」
地歌箏曲の古典の手事の楽式とは関係なく、洋楽のソナタ形式に準じて作曲されている。
4分の4拍子で構成され、この曲で最も象徴的で主題とされる楽章である。
第2楽章「組歌風」
緩徐で静かな感じを表している楽章。
カケ爪を多用し、箏の組歌の形式と特徴的旋律を取り入れた4分の4拍子、48小節の楽章で構成されている。
第3楽章「輪舌(りんぜつ)」
華麗かつ急速な楽章。
4分の2拍子で構成され、楽箏(雅楽の箏)の基本的な手に閑掻(しずがき)と早掻(はやがき)の2種類があり、残楽(のこりがく)という特殊な演奏形式をとった場合には、その2つの奏法が混用され、その部分あるいはそのような演奏法を「りんぜつ」と呼ぶ。
この楽章が「輪舌(風)」と題されているのは、形式上のことではなく、箏の奏法の搔き手(シャン)や割り爪(シャシャテン)が非常に多く用いられており、その点で「八橋検校」作曲《みだれ(乱輪舌)》の後半でテンポが速くなった部分の雰囲気と相通ずる部分があるからと思われる。
箏曲演奏家 福田恭子